トップ Companies くまもと経済EX 2008 先端バイオ技術で 熊本から世界市場へ挑戦
くまもと経済EX 2008

熊本の明日を拓く未来創造企業の戦略

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先端バイオ技術で 熊本から世界市場へ挑戦
(財)化学及血清療法研究所
国内トップクラスの生物学的製剤メーカー
 新たな感染症の出現や医療の高度化などに伴い、製薬・ワクチン業界へのニーズはますます高まっている。一方、これまで特効薬のなかった分野に対し、新たな選択肢としてバイオ医薬品の重要性も増している。これらを得意分野として製品開発を進めてきたのが(財)化学及血清療法研究所(熊本市大窪1丁目、船津昭信理事長、略称=化血研)。同研究所では、1945年の創立以来、「人体用ワクチン」「動物用ワクチン」「血漿(しょう)分画製剤」の3分野に特化した研究・開発を続けており、生物学的製剤分野では国内トップクラスのメーカーである。



船津昭信理事長・所長
ふなつ・あきのぶ/熊本県山鹿市出身、1945年(昭和20年)5月1日生まれの63歳。熊本大学理学部化学科卒。69年(財)化学及血清療法研究所入所。88年第3製造部長、92年理事、97年常務理事、2000年副所長、04年7月理事長・所長就任。趣味はゴルフ、ウォーキング
新型インフルエンザワクチン製造販売の承認申請
バイオテクノロジー研究の拠点「菊池研究所」。将来を見据えたバイオ医薬品開発プロジェクトが進行中
 アジアを中心に高病原性H5N1型鳥インフルエンザの世界的な感染拡大が見られ、ヒトヘの感染が懸念されている。化血研では、2004年から国立感染症研究所、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、独立行政法人医薬基盤研究所とワクチンの開発を進めてきた。2008年4月には「沈降新型インフルエンザワクチン(H5N1株)」の製造販売を厚生労働省に承認申請した。
 これは、アジアで採取した鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)を基に製造した「プレパンデミックワクチン」。健康成人男性を対象とした第T相試験を経て、昨年実施した第U/V相臨床試験では、「H5N1型のウイルスを用いた中和試験で抗体陽転率が70%から86%という成績が得られ、安全性にも問題が無いことが確認できた」(同研究所)。新型インフルエンザに対する予防効果を有すると期待されている。
独自技術で高い安全性と品質を確保
 1966年にスタートした血漿(しょう)分画製剤の製造では高い安全性と品質を確保している。血友病患者の治療に不可欠な血液凝固因子製剤の開発では、世界に先駆けて第IX因子のモノクローナル抗体による高純度製法の開発に成功し、血液凝固因子製剤の国内自給を支える主要メーカーとしての地位を確立している。化血研の主力製剤のひとつで1991年に発売した生体組織接着剤「ボルヒール」は、外科手術を補助する画期的製剤として広範に利用され、献血の有効利用にも貢献している。また、1980年に発売したスルホ化人免疫グロブリン製剤「ベニロン」は、開発当初からの高い有効性と安全性に加え、川崎病、特発性血小板減少性紫斑病やギランバレー症候群への適応を有し、更なる適応拡大を目指している。また、世界で最初に開発した活性化プロテインC製剤「アナクトC」は先天性プロテイン欠乏症に対する希少疾病用医薬品として使用され、2006年には特定難病疾患である電撃性紫斑病への効能も追加取得した。
新たな分野としてバイオ医薬品開発に注力
05年、菊池研究所内に完成した遺伝子組換えアルブミンの製造工場
化血研本所。本館、血漿分画製剤製造棟、ワクチン製造棟、管理棟、厚生会館、新製剤棟などがある
 化血研が、特に力をいれているのがバイオ医薬品。
 バイオテクノロジー研究の拠点となる菊池研究所(菊池市旭志川辺)は、1985年に開設、1988年には純国産技術で製造された遺伝子組換え医薬品の第1号となるB型肝炎ワクチン「ビームゲン」の製造を開始している。
 また、総事業費50億円超を投じ、菊池研究所内に遺伝子組換えアルブミンの製造工場を建設した。化血研では遺伝子組換え酵母を培養して製造する「遺伝子組換えアルブミン製剤」を開発しており、現在、第U相臨床試験を終了し、第V相に向け準備中。「海外企業と組んで、再生医療や高度な細胞培養に安定剤としての活用も提案すべく、試作ロットを海外に輸出する準備を進めている」と船津理事長。ニューヨーク等の国際的なマーケットで展示するなど、新市場の開拓を進めている。
世界に通用する医薬品開発に挑戦
 グローバル化に伴い、国境を越え熾烈な市場獲得競争に入った製薬業界。新薬の開発は各メーカーがそれぞれの強みを生かした共同研究が主流となっている。化血研ではこれまで生物学的製剤の分野で磨いてきた最先端の技術を武器に、国内外の企業や研究機関との共同研究や技術提携をさらに進めている。現在承認申請中の3種混合ワクチン「MMR-U」は米国メルク社との共同開発。他にもスイスのノバルティス社から導入した細胞培養インフルエンザワクチンの研究など目白押しだ。エイズウイルスHIV)感染症の治療薬開発のため、英国に続いてヒト化HIVモノクローナル抗体の米国での第T相試験を開始した。アステラス製薬との共同開発が進行中の抗オステオポンチン抗体を使った関節リウマチ治療薬は、欧州での第T相を終了し、現在第II相を実施中で、近々日米での治験も開始する。それに合わせ、菊池研究所内で第V相用治験薬の製造施設の設計を開始した。こうした事業の成長を支えるのは人であり、化血研は「世界を相手に戦えるだけの人材の層が厚みを増してきた」と人材の育成に自信を見せる。公益法人制度改革も目前に追っているが、「自立した企業的感覚を持ちながら、世の中に必要な医薬品を供給していく。公益性を大事にしつつ、熊本から世界に通用する医薬品の開発に挑戦していく」と語る船津昭信理事長。先端バイオ技術で世界市場に向け挑戦を続けている。
企業DATA
[所在地] 〒860-8568 熊本市大窪1丁目6-1
[TEL] 096-344-1211
[FAX] 096-345-1345
[資本金] 21億円
[設立] 昭和20年12月
[事業内容] 医薬品等の製造と頒与、予防医学研究一調査
[年商] 334億円(平成20年3月期)
[代表者] 船津昭信(理事長・所長)
[従業員] 1643人(平成20年4月現在、パート含む)
[URL] http://www..kaketsuken.or.jp/
[出先] 菊池研究所、阿蘇支所、東京事務所、東京・大阪・福岡営業所、長崎出張所、配送センター

[採用情報]
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※この記事内容は、くまもと経済EX:2008年7月1日発行分の掲載内容です。