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くま経プレス 2010年1月 vol.240
国宝の神社を“神民一体”で継承 
     活きた文化財として次世代に
青井阿蘇神社 第70代宮司
福川義文さん
 平成20年6月、青井阿蘇神社(人吉市上青井町)の五棟社殿群(本殿・廊・幣殿・拝殿楼門)が県内初の国宝に指定された。「青井さん」の愛称で親しまれてきた同神社の国宝指定は、人吉球磨地方の人々や出身者に、郷土に対する新たな誇りと自信をもたらし、神社を中心とした街づくりも始まっている。急流球磨川の河畔に建つ青井阿蘇神社を訪ね、福川義文宮司に話しを聞いた。

ふくかわ よしふみ/1964(昭和39)年人吉市生まれ。多良木高校から國學院大學卒業後、平塚八幡宮権禰宜(神奈川県)を経て、1988(同63)年青井阿蘇神社権禰宜、翌年遥拝(ようはい)阿蘇神社、薩摩瀬神宮宮司、1996(平成8)年青井阿蘇神社禰宜を務め、2004(平成16)年青井阿蘇神社第70代宮司。老神神社、若宮神社、矢黒神社、中島阿蘇神社の各宮司も務める。趣味は人吉球磨地方の焼き物などの収集。

★青井阿蘇神社
平安時代の大同元(806)年創建。阿蘇神社の三神を祭神とし、鎌倉時代から明治維新までの約700年は、この地を治めた相良家歴代当主の保護により独創的文化が継承された。
境内中央に南北に並ぶ本殿、廊、幣殿、拝殿、楼門の五つの社殿は、初代人吉藩主相良長毎(ながつね)と重臣・相良清兵衛の発起により、慶長15(1610)年から18年にかけて造営されたもので、平成20年6月9日国宝に指定された。
国宝の神社を“神民一体”で継承
活きた文化財として次世代に
人吉球磨の新たな誇りと自信


―国宝指定は地元にとってどんな意味がありましたか。
 

福川 県内初の国宝誕生は、人吉球磨の人々や出身者に、少なからず郷土に対する新たな誇りと自信をもたらしたのではないかと思っています。青井阿蘇神社は、地元の方にとってはお祭や初詣、あるいは結婚式、赤ちゃんの初宮詣、七五三、厄祓いなど、人生の節目のご祈願を執り行わせていただいている場所です。そんな日常の一風景として親しまれてきた神社を、人々の生活に密着した信仰の拠りどころとして、再認識していただくきっかけになったことが、何よりもうれしいことだと思っています。


―神社を中心とした街づくりも始まっているそうですね。


福川 そうです。お陰様で国宝指定を受け、参拝者や観光客数は約5倍に増えました。こうした方々に対して、休日を中心に人吉案内人協会の神社ガイドや地元町内会女性部のお茶の接待など、心のこもったおもてなしをしていただいています。
また、観光客の新たな受け皿としては、NPO法人「九州さがらヒストリア」が設立され、国宝の神社を学習の場、体験の場として、ここでしか味わえない歴史と文化を体感できる様々なプログラムを展開しています。
参拝者や観光客の増加に対応するためには、神社職員だけではどうしても手薄となります。この部分を民間の協力で補い、神社本来のあるべき姿に少しでも近づけ、充実して行こうという試みが、地域の皆さんの自発的な活動として根付き始めています。私はこうした取り組みを、「神(かん)民(みん)一体」と表現していますが、街づくりの一翼を担い、若者の雇用創出にまでつながればと願っています。


地域振興のテーマは「つなぐこと」


―ところで、このような歴史的建造物が継承されてきた背景には、長くこの地を治めた相良家の存在が大きいと思いますが。


福川 御鎮座から1200年の時が経ち、一連の建造物が造営されて400年を迎えようとしている中での国宝指定は、人吉・球磨地方を約700年間にわたり一元的に支配してきた相良家歴代当主の存在をぬきにしては語れません。神社の歴史的価値のみならず、有形・無形の独創的文化を築き、伝承してきた相良家の功績を再認識し、地元の小・中学校でも先人たちの尊い知恵と努力を改めて学ぶ契機になればと考えています。今後はなお一層、活きた文化財として確実に次世代に継承していくことが、私たちの役割です。


―最後に青井阿蘇神社は、今後どういった存在であるべきだとお考えですか。


福川 神社は信仰の場です。言葉遊びになるかもしれませんが、「信仰」と「観光」は読み方の「し」と「か」の違いだけでよく似ています。また、「信仰」は「振興」という言葉にもつながっていると感じています。ですから、信仰を通じて、地域振興に貢献ができないかと考えています。
現在、御鎮座1200年祭の記念事業を計画していますが、テーマは「つなぐこと」です。人吉球磨地方も人口が流出し、出身者の子どもたちの多くは都会で生まれ、自分のルーツが分からない人も多くなっているのではないでしょうか。例えば故郷に里帰りした時に、自分のご先祖さんの名前に出会えるような、そんな心のつながりを青井阿蘇神社が取り持つことができる存在でありたいと考えています。


―ありがとうございました。



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