肥後象眼に独自のデザイン
象眼師
伊藤恵美子さん
スペインのトレドと熊本を拠点に、両方に共通する伝統工芸である「象眼」でアクセサリーなどの創作活動に取り組む伊藤恵美子さん。今春の第40回伝統工芸日本金工展では眼鏡のフレームをモチーフにしたネックレスを出品し新人賞を受賞した。独自の創作技術を追求する伊藤さんを玉名市宮原の自宅アトリエに訪ね、作品作りへの思いを聞いた。
肥後象眼に独自のデザイン
−スペインと熊本で創作活動をされていますが、象眼を始めたきっかけは。
伊藤 元々、布をベースにしたクラフト系のアクセサリーを作っていたのですが、自分だけにしかできない技術で作ってみたいという思いがありました。そんな時に熊本県伝統工芸館が開く伝統工芸後継者育成事業に参加し、肥後象眼の白木光虎、良明両先生にご指導をいただいたのが象眼の道に入ったきっかけです。象眼をやっていくうちに世界にはスペインにも象眼があることを知り、2009年九州電力の若手工芸家国内外派遣制度を利用し、スペイン・トレドのイルデフォンソ先生の工房でスペイン象眼のダマスキナードの技法を学びました。現在は半年ごとにスペインと熊本を行き来し、スペインの象眼技法と肥後象眼の伝統技法をミックスした独自のアクセサリー作りを目指し、活動しています。
−伊藤さんの作品には双方の伝統技法が生かされているのですね。
伊藤 肥後象眼は、刀のつばなどを装飾した武士の「おしゃれ」として発展しました。「重厚にして雅美」という表現に例えられるように、黒をベースにした空間の美やバランスを重視し、重みのある質感と上品さが特徴です。スペインの場合、同じように甲冑(かっちゅう)などの装飾技法として生まれたものですが、表に見せる装飾品として発展し、すごく華やかなものが多いのが特徴です。私は女性ですので、可愛いものを身につけたいという思いがあって、スペイン象眼の繊細で華やかな技術がすごくかっこよく感じ、その技術を応用して作品を作っている部分もあります。もちろん日本人ですので、肥後象眼の黒のバランスも好きで、双方の伝統技法を生かしていきたいと思っています。
−新人賞の作品は眼鏡のフレームをモチーフにした斬新なデザインですね。
伊藤 ありがとうございます。フレームには極細のタガネで布目を入れ、金銀の線を埋め込んだ上から模様を打ち込むという、肥後象眼にはない技法を取り入れています。それをすることで平面の中にも立体的でキラキラとした模様が表現できます。自分でやってみたかった技法で制作した作品を評価していただき、伝統工芸の世界も変化を求めているんだなという印象を持ちました。
−これからの創作活動の目標は。
伊藤 象眼は黒と金、銀の三色しかない世界です。私はアクセサリーを中心に制作していますので、もう少し華やかさとか、可愛い要素を取り入れたいという思いがあり、今、ガラスを入れたり、パールを組み合わせた作品作りにも取り組んでいます。象眼の伝統技法を踏まえつつ、切り抜きや透かしなどの変化を入れて現代のニーズにも応え、日常生活の中で使っていただけるもの、その中に作家性のある個性的なアクセサリーを作っていきたいと考えています。
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