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里親制度の拡充訴える・・・塩崎恭久元厚労大臣

2022年6月27日(月)

 元厚生労働大臣の塩崎恭久氏は6月18日、益城町のグランメッセ熊本で開かれたセミナーに講師として招かれ、里親制度を取り巻く状況と今後の課題について語った。主催は里親制度の普及やマッチングを行うNPO法人優里の会(運営本部=熊本市東区健軍本町、黒田信子理事長)。約200人が参加し、会場には西聖一県議や熊本市議の村上博氏、田上辰也氏、古川智子氏などの姿もあった。
 塩崎恭久(しおざき・やすひさ)氏は、1950(昭和25)年11月7日生まれ、71歳。東京大学教養学部教養学科アメリカ科卒―ハーバード大学行政学大学院修了後、日本銀行入行。愛媛県松山市出身。93年衆院愛媛1区(中選挙区)で初当選。参院議員を経て2000年衆院愛媛1区から当選(衆院は通算8期)。06年内閣官房長官、14年9月から17年8月まで厚生労働大臣。昨年の衆院選には出馬せず議員生活からは身を引くも、現在も精力的に政策提言などを行っている。
 会では冒頭、優里の会の黒田理事長が主催者あいさつに立ち、「2020年にフォスタリング機関として県から業務を受託し、里親養育の包括的支援を行っている」と業務内容を説明。塩崎氏を講師として呼んだ経緯について「昨年の文芸春秋12月号に掲載された塩崎先生の記事を読んで、是非このお話を熊本で実際にしていただきたいと思った」と語った。

●厚労大臣として化血研問題に対応

 登壇した塩崎氏は熊本の印象について語り出し、「蒲島郁夫知事はハーバード大学のケネディスクールにおられた。私も以前、同窓会の会長をやっていた」と蒲島知事との関係を明かした。また、2015年に化血研の不正問題が判明した際、厚労大臣として対応にあたった。「公益法人から民間企業に移行する中で、県にも大変お世話になった」と振り返った。
 昨年70歳で国会議員を引退後、里親登録を行った理由について「私は議員生活を通して児童福祉の問題と深く関わるようになった。これまでは法律や制度をつくる立場だったが、これからは法律を使う立場に立ち、その使い勝手がいいかどうか、あるいは直すべきところは何か、実態とずれているところは何なのかを学びながら、(政府に)働きかけをしていきたいと思うようになった」と語った。

●戦後70年変わらなかった児童福祉法

 塩崎 先ほどお話にもあった通り、昨年文芸春秋に取り上げられた。取り上げられたのは良かったのだが、残念ながら、まだ里親として子どもさんを預かっているわけではない。以前愛媛県内の里親の方々とお話をする機会があったが、多くの方が「里親登録をしても、待てど暮らせどマッチングがこない。児童相談所の専門相談員の顔を見たこともない」と話していた。
 戦後70年間、何も変わらなかった問題に、児童福祉法の改正というパラダイムシフトの流れをつくってきた立場から、お話しさせていただきたい。
 虐待を受け、保護しなければならない子どもが増えている。私が官房長官を務めていた2007年は、「こうのとりのゆりかご」がスタートした時だった。記者会見の時、どう答えたらいいのか苦労して答弁した記憶がある。それから10年後、厚労大臣の時にゆりかごの現状を改めて見てみると、全国から利用があるという実態を知った。ある意味、ニーズがあるんだなと分かった。もちろん、こういったことが起こらないのが一番いいが、何かしらの手立てがやはり必要なのだと思った。
 「内密出産」については、政府がガイドラインをつくるとのこと。ソーシャルワークは人間の問題を解決しようというものだ。制度化するのは大変なことだが、しっかりと議論をしてほしい。何よりも、子どもたちの幸せを考えて制度設計をしてもらいたい。

●十分に理解されていない里親制度
●子ども専門の国家資格創設を

 塩崎氏はこれまで、「要保護児童の社会的養育問題」に自民党内での勉強会で取り組み、次第に超党派の動きへと広がった。2016年の児童福祉法の改正まで漕ぎ着けた。「1989年に国連で子どもの権利条約が採択されたにもかかわらず、国内法の整備が進んでいなかった。児童福祉法の抜本的見直しに取り組んできた」と振り返った。
 欧米の国々に比べ、日本では「特別養子縁組」がほとんど利用されておらず、里親委託率が低い現状を解説。都道府県別での委託率の自治体間格差が大きいことを説明し、熊本県は全国でもワースト2に位置付けられている現状も示した。
 日本財団の里親意向調査資料を挙げ、「子どもの養育費支給の制度があることや、短期間でも里親になれるということが周知されていない。一方で、日本には里親を必要としている子どもが3万人以上いる」と述べ、里親制度についてほとんど一般的な理解がなされていない実態を明かした。
 出席者から里親制度が進まない理由について質問があると、「里親登録は増えていても、児童相談所に専門の担当者が少なすぎる。人員配置が十分できていない」としながら、「こういった現状をを変えるのが政治の役割だ。自治体の予算措置の権限を持つのは首長。有権者は選挙の時に、その候補者がどのように取り組もうとしているのか、問いただすことが重要」とした。
 今後の課題解決に向けては、すべての児童相談所に「里親推進課」を設置し専門の担当者を増員、民間フォスタリング機関のない自治体の早期解消の必要性を強く提言。児童のソーシャルワークを専門的に担う「子ども家庭福祉士」といった国家資格創設の必要性も訴えた。(松本)

講演に立つ塩崎氏
優里の会の黒田理事長
約200人が参加した