トップ Companies くまもと経済EX 2006 原料=米・温泉水・牛乳+“創意工夫”目指すはオンリーワンの焼酎づくり
くまもと経済EX 2006

熊本の明日を拓く未来創造企業 100の戦略

■製造・農業  ■電力・運輸・建設・不動産 
■情報通信・ICT関連  ■金融・保険・卸・流通・小売  ■ホテル・飲食・サービス  ■医療・福祉・医療関連・教育 
製造・農業
原料=米・温泉水・牛乳+“創意工夫”目指すはオンリーワンの焼酎づくり
(資)大和一酒造元
工場内に湧く温泉。大和一酒造元の焼酎はこの温泉水(重曹泉)を使い仕込まれ「オンリーワンの焼酎」となる
 「創意工夫」…事業家には欠かせない大切な能力である。特に、モノづくりに携わる者にとっては、最も重要な資質かもしれない。人吉市の西部、清流万江川が球磨川本流に注ぐ辺りは、「温泉町」の名が示す通り人吉でも古い温泉郷である。ここに創意と工夫を重ねた個性的な焼酎づくりで知られる合資会社大和一酒造元(人吉市下林町、下田猛社長)がある。
 同社の創業は昭和27年1月。2代目として下田さんが父親の後を継いだのが昭和48年。家内工業的な零細焼酎メーカーの社長として、何とか業績を伸ばそうと販売形態の変更、取扱先の開拓、新商品づくりと試行錯誤を重ねた。当時、結構な利益を出したのが水前寺公園や天草な
どの土産物店で売った陶器入りの焼酎。普通の焼酎が720ml入りで500円前後だった頃、陶器の壷に入った土産用を1,250円で売った。しかし、下田さんは忸怩たる思いを募らせた。「中身の焼酎より入れ物の壷
の値段が高かった。邪道だと思った」。
温泉水で焼酎づくりに挑戦
同社の主力銘柄・牛乳焼酎『牧場の夢』
 「売れる焼酎を作ろう」と下田さんは昭和52年から本格的に研究を始めた。ある時、「仕込みに自前の温泉水を使ったら?」と考えた。自前の温泉水には体にいい成分が多く含まれ、味もまろやかだった。焼酎メーカー28社がひしめく人吉・球磨で後発組が販売を伸ばすには、独自の商品づくりによる差別化しか方法はないという思いも強かった
 温泉水(重曹泉)はPh8.9の弱アルカリ性。しかし、原料のもろみは「酸性でないと品質が安定しない」と専門家は否定的だったが、下田さんは工夫を重ねた末、もろみを作る1次、2次仕込みから蒸留までの全工程に温泉水を使った焼酎の開発に成功、昭和61年温泉焼酎『夢』の銘柄で売り出した。
 発売当初、問屋はけんもほろろの扱いだったが、日本経済新聞の「埋もれた特産品を探す」という企画に送ったサンプルがキッカケで、北九州の問屋が販売に名乗りを挙げ販路が開けた。
オンリーワンの「牛乳焼酎」
下田猛社長(左)と下田文仁専務
 次に取り組んだのが、まさに“独創”の形容が相応しい「牛乳からつくる
焼酎」。開発前にこの構想を耳にした人は、独創ではなく“奇想”と感じたに違いない。
 開発のきっかけは、阿蘇で牛乳販売業を営む温泉焼酎の愛飲家から届いた1通の手紙だった。手紙には「温泉焼酎は牛乳割りで飲むのが一番」とあった。ポスト温泉焼酎のアイデアを練っていた下田さんは早速試してみた。しかし、こちらも一筋縄では行かない代物だった。「発酵したモロミの表面に油が浮いて、工場に異臭が立ち込めた」。この後の工夫は企業秘密になるのだが、ここでも試行錯誤の末に見事な焼酎に仕上げた。口に含むと仄かにルクの香りがする牛乳焼酎は上々の出来栄えだった。
 平成10年11月、牛乳焼酎『牧場の夢』の名前で発売した。「1年間で100本売れれば、将来に望みがある」が下田流の判断基準だったが、販売は予想を遥かに上回って推移、特にフルーティな味わいは女性の心をつかみ、発売以来倍々ゲームの伸びを示した。
 加えて、牛乳焼酎の思わぬ“副作用”が、ローカルな焼酎を全国区のの焼酎に変身させた。“発毛効果”である。「自分で試してみたら産毛が生
えました。従業員にも生えてきました」と下田さん。“毛生え焼酎”の噂は口コミで広がり、週刊誌や新聞、全国放送のテレビでも取り上げられ、全国各地から注文が舞い込んだ。
 ここ数年は注文に生産が追いつかない状態が続き、牛乳焼酎『牧場の夢』は大和一酒造元の看板銘柄に成長している。
2段蒸留の『夢一道』を今秋発売
 事務所の裏に続く工場に足を踏み入れると、個性的な焼酎を生み出す同社の“企業風土”を実感できる。「モロミ絞り機」「蒸し米輸送機」「下田式蒸留機」「下田式減圧機」etc…いずれも下田社長自作の機械である。紙幅の関係上、詳しい説明は割愛するが、「この人にして、この焼酎あり」の面目躍如たるものがある。
 この11月には20年ほど前に開発した「下田式2段蒸留機」を再調整し、常圧蒸留ながら臭いを抑え、口当たりまろやかにして味わいのある『夢一道
(ゆめいちどう)』の発売を予定している。創意と工夫が可能にする
下田さんの「他社ではつくれないオンリーワンの焼酎」づくりが続く。
企業DATA
[所在地] 〒868-0083 人吉市下林町2144
[TEL] 0966-22-2610
[FAX] 0966-22-2660
[設立] 1953(昭和28)年1月
[事業内容] 焼酎製造
[年商] 4億8.900万円(H16年6月期)
[代表者] 代表社員 下田猛
[従業員] 10人

[採用情報]
現在、登録がありません。
※この記事内容は、くまもと経済EX:2006年7月1日発行分の掲載内容です。